2008131
前畑 典子

折から来日したジョージ・ハート先生を囲んで、形シューレが行われた。1月4日お正月気分も抜けずに参加したが、数々の楽しく珍しい発見があり、京都の町を少し深く知ることが出来た。形シューレは形の科学会の主催。合宿等を通したざっくばらんな意見交換や勉強の会だが、今回はお世話人の京都大学名誉教授宮崎興二先生と、ニューヨーク・ストニー・ブルック大学教授ジョージ・ハート先生が2本の柱となった多次元多面体への門が築かれて、多次元多面体のことをまったく知らない私も含めて、知らぬ間に多次元への門をいくつも潜り抜けていたという楽しく、不思議な体験をした。
14 1時 八坂の塔集合:八坂の塔の前で形の科学会の参加者を待っていると、八坂の塔のお坊さんが出てきて宮崎先生に、「五重塔とプラトンの先生ではないですか?」と聞く。「以前テレビに出られた先生ですね?」宮崎先生は、「京の幾何学」という連載記事を新聞に掲載され、テレビでもお話されたことがある。彰国社の「『かたち』の謎解き物語」という本の中で、身の回りにあるもの全ての形を捉えて大変興味深い考察をされている。この本を読むと、物を見る目が変わり、身の回りの物を観察するのが楽しくなる。この日、三々五々十数人が集まって、まず舞扇堂へ。お扇子の絵付けをするのだ。普段絵を描く機会はあまりないけれど、それは、なにかわくわくする時間だ。それはじっと描くという作業と、描いているものを見つめるという作業に没頭し、他のことは一切頭をよぎらない時間だからではないだろうか。
舞扇堂で宮崎先生は、上手に見える絵を描くこつや、昔の日本の扇を使った和算についても、図を用意して説明してくださった。扇が120度開くことを利用して、それ自体が幾何学の問題であり、きれいな図形になっている。絵付けをしている参加者を眺めながら、「フフフ、皆さん、私が最初やったことをやっていますね」と先生は楽しんでいる。どの参加者も、迷わずただちに作図に入り、さすがものすごい集中力で取り組んでいる。どれも魅力的な絵柄だ。ジョージ・ハートさんも、お気に入りの多面体をいくつか描いている。しかし、人の作品を見て感心している場合ではない。私は宮崎先生の見本を真似て、放物線上に4原色の円を描いた。幼稚な絵柄で恥ずかしいが、仕方がない。複雑な絵柄では、ぼろが出るというものだ。単純なのが良いのですよと、舞扇堂のお姉さんがなぐさめてくれた。今日、出来あがった扇が届いた。大自己満足。


放物線上に球体を
描いたつもり

扇の起源は、古代からあったといううちわの形を折りたたみ式にしたのが8世紀という。扇という形と向き合い、一頻りの集中作業を楽しんだ後は、ミニ・セミナー。場所は、祇園のど真ん中にある、ザ・ガーデン・オリエンタル。古い民家とお庭を改造した趣のある木造建築。この他にも、宮崎先生は祇園の穴場をいくつか教えてくださった。まず今回のゲスト、ジョージ・ハート先生の紹介。コンピューター・サイエンスの研究科の教授であり、幾何学彫刻の作家でもある。幾何学形とアートは分けて考えているということなどをハート先生が話された。しかし話の前にまず立体が登場。言葉より作品が物語るというわけだ。「皆さん見たいですか?」とパズル立体を袋から取り出し、皆に回す。難易度順になったパズルを、「これが解けたら、次はこれ。ちゃんと元の形に戻して、次の人に回してください。これは、アート。宮崎先生にプレゼント。」と小さな、バラの花の集合体のような球状のオブジェを取り出した。写真は、オブジェを見る宮崎先生と説明するハート先生。立体は全てコンピュータ・ロボットの製作という。宮崎先生のミニ・セミナーは蘇民将来や、三角形の鳥居など、日本の建築物等にみられる不思議な形について。なぜ三重塔と五重塔があるのか、昔の算額とは、伏見稲荷の2万本の鳥居について、など、明日訪れる場所の説明も含めて興味深いお話。先生が発見された京都の不思議な形について、今回はじかに教えていただけるのが大変興味深い。

暮れなずむ清水の三年坂は、まだ初詣の人でいっぱい。それぞれが清水寺に、お話の中にあった石畳の格子模様などを検証に出かけ、その後は新年会。会場に着くと、皆宮崎先生の著書を囲んで、ハートさんと一緒に写真を眺めて話している。テーブルにドンと置かれた鍋を見て、目を丸くするハート氏。まだ初めての日本に来て数日しかたっていない。言葉の分からない回りの状況に細かく気を配りながら、すっかり周囲に順化しているハート氏を見るのも楽しい。言葉が通じていなくても、どの対応も適確だ。ワークショップの時にもいつも感心するのだが、観察力が鋭いのだろう。参加者一同に、何か幾何学的なおもちゃを持ってきたか、と聞く。おもちゃが大好きなのだ。写真は建築家の阿竹さんの作品、「あたけぼね」を見て喜ぶハート氏。この日の様子は、ハート氏のホームページにも掲載されている。http://www.georgehart.com/Japan/index.html


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5日、朝10時 伏見稲荷大社の楼門集合。ここは昨夜の清水寺とはまったく別の下町風情。すごい人ごみ。半分は大阪からの初詣客だろうということ。団体バスで来る人も大勢いる様子。大社の敷地は広大で、山ひとつを廻って各所に社があり、各社に向かって全部で2万本の鳥居が並んでいる様は壮観である。鳥居は全て奉献されたもので、奉献者と年月日が書いてある。この日集まったのは、全部で7名。先生方の健脚に脱帽。伏見稲荷にお参りするたくさんの人の健脚ぶりにも、びっくり。皆さん杖を持ち、帽子をかぶった登山スタイルで、厳しい初詣。この中社に、元旦、宮崎先生とハート氏は小さな鳥居を奉納したという。その鳥居は、お二人の多次元世界への門だったのだろうか。

15 講演会 「多次元のかたちを考える」


午後は、京都大学時計台記念館で、講演会。演者は立木秀樹先生、宮崎興二先生、カスパー・シュワーベ先生、ジョージ・ハート先生
4人という豪華な講演会が開かれた。

プログラムは以下の通り。参加者は約100名。ジャパン・ゾムクラブの事務局長、永井さんはじめ、クラブの会員の方も数名参加されていた。国際交流ホールUの大きな部屋が聴衆で一杯になり、大変内容の濃い、楽しい講演会となった。


【 講演会「多次元のかたちを考える」プログラム 】

午後1時15分―2時:
  4次元ビデオ鑑賞解説
    宮崎興二(京大名誉教授)

午後2時15分―3時15分:
  講演「四角く見えますか? --- 立体フラクタルとその射影」
    立木秀樹(京都大学人間・環境学研究科准教授)

午後3時30分―4時30分:
  講演「3次元と4次元のかたちで遊ぶ」
    カスパー・シュワーベ(倉敷芸術科学大学教授)

午後4時45分―5時45分:
  講演「4次元のかたちを学ぶ」
    ジョージ・ハート(N.Y.ストニー・ブルック大学教授)

右は、講演前のジョージ・ハート先生。今回は通訳なしの講演だったが、ハートさんの幾何学オブジェの作品紹介から始まって、大変分かりやすい内容だった。 立木先生は、フラクタルを分かりやすく説明され、N次元の定義にも言及された。また、フラクタルの応用で、ヒートアイランド現象を軽減できる屋根なども紹介された。何となく、多次元のことが分かってきたような気分になる。宮崎先生は、まだコンピュータが今のように普及していないときに作られた、4次元の映像を見せてくださり、先生の担当は音楽を選ぶことだけだったとユーモラスに語られた。「若いときには何でもやっておくものですね、一時期夢中になった音楽が、こんな時役に立ちました」 とおっしゃる。多次元の多面体の回転の映像には、ワルツが最適なのだそうだ。フーム、これが4次元の多面体なのか。ぼこぼこと、出たり入ったり、呼吸している細胞のようだ。シュワーベさんは、ご自分の作った幾何学おもちゃを色々と見せてくれる。大道芸のようなリズムの語りで、おもしろい。ジョージ・ハートさんは、「4次元の形は、新しい形へのアイデァをくれるので、とても大切」と話す。ゾムツールを使った4Dモデルを紹介。アメリカ各地や、イタリアのベニスなどで作った幾何学オブジェを紹介し、多面体の研究の歴史にも言及された。19世紀中ごろには既に4次元以上の多面体が発見されていたという。盛りだくさんの講演会だったが、素人の私にも、少しは多次元多面体についての理解ができたような気がした。 講演会の内容に関しては、参加されたジャパン・ゾム・クラブの会員、日野さんと、お子様と参加された渡辺さんが、詳しい報告と大変興味深い感想を寄せておられるので、そちらも是非ご覧いただきたい。http://www.zome.jp/コラムの第8回参照


夜は、先斗町に場所を移して、懇親会。ゾムクラブの永井事務局長はじめ、宮崎先生を囲んで大勢の人が集い、楽しいときを過ごした。 写真は、シュワーベ先生とハート先生。「かたち」を通して、いろいろな交流が生まれた。


高次元に関する宮崎先生のホームページはこちら。http://www009.upp.so-net.ne.jp/kojigen/2004v2/profile.htm