BRIDGES  LEEUWARDEN
Mathematics, Music, Art, Architecture, Culture

開催日:2008年7月24日〜7月29日

会場:オランダ Leeuwarden(レーワルデン)CHN大学

ブリッジズは数学と芸術、音楽、建築、を結ぶ国際会議で、各分野の専門家が集まり、新しい考え方や作品を発表しあう国際会議です。今年はM.C.エッシャーの生誕110周年を記念し、エッシャー生誕の地、オランダのレーワールデンで開かれました。世界の27カ国から数学者やアーティスト、建築家などが200名以上参加しました。

7月24日、25日、28日には、基調講演のほか多数の講演とワークショップが行われ、特に28日は、「エッシャー・ディ」として、エッシャーにまつわる講演やワークショップが行われました。26日は、エクスカージョンで、レーワルデンの郊外に点在する7つの教会に展示されたアート作品を見て回りました。29日は、「ファミリーディ」。レーワルデンの町中、エッシャーの生誕の建物の前の通りで、市民を対象としたワークショップが開かれました。

多数の参加者と充実した発表、展示、又、エッシャーを記念するということで、エッシャー財団や、レーワルデン市、フリースランド州も一体となった、大変充実したブリッジズに参加できました。会議の様子をお伝えします。

                                              前畑 典子 ・ 角田 美由紀

レーワルデン

  レーワルデンは、オランダの北部にあるフリースランド州の州都です。アムステルダムから約100キロの地点にあり、美しい牧草地が広がる中に、中世の美しい建物と運河の町、レーワルデンがあります。主な産業は酪農というこの都市は、15世紀から17世紀に大変栄えたということです。

M.C.エッシャーは、1898年にこの町の中心部にある、プリンセスホフという、元皇族が住んでいた小宮殿で生まれ、幼少時代を過ごしました。今では、エッシャーの生家は、プリンセスホフ・陶磁器美術館となっています。

CHN大学は、町の中心部から約10分ほど歩いた、大きな緑いっぱいの公園の前にあります。赤い窓枠が印象的な近代的な建物は快適で、構内には瞑想室もありました。ブリッジズの会議と展示の大半は、この大学のキャンパス内にある学生センターで行われました。プログラムは、ブリッジズのサイトから御覧下さい。


水の町、レーワルデン、町のあちこちには運河があり、船も停泊しています。
タイルは、エッシャーの生家の横に飾られていて、エッシャーの家の目印になっています。このタイルの作者は、レーワルデン在住の外科医でありタイル作家のクラ−ス・マークスさん。エッシャーの生まれた町に、エッシャーを偲ぶものが何も無いことを大変残念に思い、エッシャーを思わせるこのタイルの作品を作ったということです。運河にかもめが飛ぶ水の町にふさわしいタイル作品ですね。マークスさんは、ブリッジズのワークショップにも参加され、日本のアーチスト、日詰明男さんのフィボナッチによるモビールを購入されました。息子さんが、最近フィボナッチに凝っているということでした。今回のブリッジズは、レーワルデン市民の参加も多く、このような町の人たちとの交流も大変楽しかったことのひとつです。

夏の陽光を楽しむ市民 酪農の国らしいレストランの看板 朝運河沿いに散歩する人
2008年度ブリッジズの旗
オランダ・レーワルデン
会場となったCHN大学にあるモニュメント。不思議な建築物である。 今回展示したi-gami双対多面体の“Hexecontahedron ”
展示作品と参加者
  広い学生ホールには100点余りの作品が展示されました。ロバート・ファーザウ博士のキューレーションによって事前審査された作品ばかりです。日本からは、アイガミのヘキサコンタヒドロンが審査に通り、はるばる持参した作品を前日、ステージのテーブルの上に展示しました。反響は大変よく、アイガミのキットが、子どもたちのために大変作りやすく、幾何学形も簡単に作れるよう設計されており、展開図も学べるという点が参加した数学者にも注目されていました。
ジョージ・ハート先生は、アイガミで巨大モデルを作るワークショップをやりたいとおっしゃっていました。京都以来の再会。 アイガミに注目するドリス・シャツナイダー先生。エッシャーに関する研究で知られ、「Visions of Symetry」等、多数の著作があります。今回の会議の基調講演者の一人。アイガミの説明をするのは角田。 音楽と数学を勉強中のビッキー・ハートさん(左)と、お父さんの数学的彫刻を工学的に解説したトム・バーンホフ先生
イレーヌ・エリソンさんのキルト作品。イレーヌさんは、元数学の教師をしており、日本でも教えたことがあるそうです。 イレーヌさんと作品の前で。イレーヌさんは、日本の押し絵にも大変興味があるそうです。何歳になっても、作品を作り続けるわという情熱的な方。 昨年のブリッジズで出会った数学者バーン・クラウスコフさんとアーチストである、ベンジャミン・ストークさんのコラボ作品。
下の画像は、郊外の教会で展示されていたウルリッヒ・ミクロバイトさんの、紙の多面体。

教会に入ったとたん、その作品の緻密さと美しさに、参加者一同歓声をあげました。中段の右は、ウルリッヒさんと話す、日本の日詰さん。ウルリッヒさんは、もう30年間このような作品を作り続けているそうです。それも、趣味で。どうやって作るのですか?と聞くと、「まず紙をプリンターで色付けして、はさみで紙を切り、糊でつけるだけです。」と、簡単そうな答え。う〜ん、すごすきる!作者に皆握手をして、作品に賛辞を述べました。中には、「あなたの奥様にも、賛辞を送ります。あなたの作業を待ち続けたその忍耐に!」という人もいたほど、本当にどれだけの時間がかかったことでしょう。

ウルリッヒさんの作品は、多面の庭というホームページで見ることができます。
次は、今回の会議の立役者であった、オランダの誇る幾何学的アートの第一人者、ライナス・ローロフさんの作品。

ライナスさんとは、2005年のバンフ、2006年のロンドンのブリッジズで会って以来です。毎年充実した作品を展示していますが、今年は特に、教会での展示で作品数も多く、多岐にわたる彼の才能をたっぷりと見せてくれました。CGによる作品や、新しい傾向としては、今年のテーマである、”Connected Holes"のバリエーションを、伝統のゴフラン織りで再現するという離れ業もありました。遠くから見ると、絵のように見えるほど緻密に色が再現されています。中段左は奥様と。真ん中は、シンガポールの作家林欣欣さんと、エッシャーのような不可能な空間を描くハンガリーのアーチスト、イストバン・オロスさん。
イストバン・オロスさんの作品は、塔以外の部分は12世紀ごろ建てられたという美しいロマネスクの教会で展示されており、貴重なアニメも上映されており、ファンタジーの世界をしばし楽しみました。

レーワルデンの郊外には、中世に建てられた教会が多数あり、その多くは、住民が少ないために閉鎖されているそうです。今回は、フリースランド州をあげてこれらの教会を借り切り、アートフェスティバルがブリッジズと同時開催されていました。アートの優秀作品が表彰されたり、公募作品も展示されており、郊外の教会を巡るバスのツアーも、7月24日から8月10日まで市民や観光客に公開されています。アーチストも、できる限り展示場にいて作品の説明をするように企画されたものです。
オランダは、30%がカトリック教徒だということですが、国の真ん中を流れるライン川から南にカトリック教徒が多く、北側はプロテスタントが多いそうです。宗教改革前に建てられたこれらの教会は、全てカトリック教会であったと思われます。中には古くて美しいパイプオルガンがありました。
ワークショップ
毎日午後の時間帯には、日本のアーチストである日詰明男さんたのスターケージ、台湾・亞洲大学の呂先生の折り紙多面体、アメリカのマリリン・スー・フォード先生の、小学生に、エッシャータイルの魔法を使って数学とアートを教えるというワーク。ひもを引っ張って多面体をエイヤッと作るワークなど、多彩なワークショップが行われ、参加者はそれぞれのワークに参加して、交流を深めました。一緒に作業をするということは、言葉の壁も乗り越えて達成感を味わうことができ、お互いに新しい算数、数学の教育法を学び会い、和気藹々でした。
Family Day
   
7月29日
 最終日は、レーワルデンの街中、エッシャーの生家跡の通りで、参加者の数学者やアーチストが、市民のためのワークショップを行いました。家族連れが物珍しそうにワークショップを訪れ、幾何学形を作ったり、キットをもらったりして楽しみました。日本のアーチスト、日詰明男さんは、広場に竹で、スターケージの大型をインストールし、行き交う市民が、歓声を上げていました。迫力満点のインスタレーションです。一本いっぽんの竹の長さを切りそろえて、組立の準備をする日詰さん。

ブリッジズの代表、リーサ・サランギ先生は、自ら持参したゾムツールでプラトンの五立体を作り、子どもたちに幾何学のワークショップをしてくださった。

ジョージ・ハートさんは、プラスチックで作った多面体模型と同じものを、紙を組み合わせるだけでできるような型紙を用意して、子ども達に色を選ばせて、ワークショップを行っていました。大先生なのに、「ハーイ!私はNYから来た、ジョージだよ」と気さくに子ども達に話しかける様子はとてもフレンドリーで、一人でも多くの子どもに多面体の面白さを知ってほしいという情熱を感じました。

アメリカから来たパトリックは、竹ひごを医療用のチューブを切った輪ゴムのような止め具で組んでいく多面体を作ります。指ではじくと高く飛ぶので、子ども達の人気でした。

ライナス・ローロフさんは、手作りのレオナルドスティックを組んだり、一本外すと多面体全部が崩壊する仕組みの組み木多面体などを展示し、通りがかりの人を楽しませていました。地元のテレビ取材に答えて、多面体を一瞬にして崩したライナスに、「いーけないんだ!」という声がかかり、周囲も爆笑。レオナルドスティックを組んでいるのは、数学の先生をしている娘さんです。

エッシャーの生家、プリンセスホフ美術館では、学芸員が、子どものためのタイリングのワークショップをしていました。

物販もおこなわれました。見本で持参した、ゾムツールのプラトンの五立体は、すぐ売れてしまいました。日本の日詰さんの作品も、人気を集めていました。



ひとりの男の子が、プリンセスホフから出てきました。M.C.エッシャーも、この子くらいの年まで、このプリンスホフに住んでいたのでしょうか。後から出てきたお母さんにそう話しかけると、「この子にもそんなに才能があったら、とてもうれしいわね」と言って、穏やかに微笑みました。6日間にわたって行われた、エッシャー生誕110周年を記念するブリッジズが幕を閉じました。本当に多くの出会いと感動がありました。私たちも、参加できたことを感謝したいと思います。