The Bridges Conference
2005.7.31〜8.3
                                                                    前畑典子
The Bridges Conferenceに参加しました。

ザ・ブリッジズ会議は、数学と、芸術、音楽、科学との架け橋をテーマに開かれる国際学会で、今年は第8回目です。7月31日から8月3日までカナダのバンフ・センターで開かれ、今年の会のタイトルは、「ルネサンス・バンフ」。これは、西欧文化のルネサンス時代には、数学も含めたあらゆる学問や、建築、音楽、芸術の全てが刺激しあって発達したことを踏まえ、現代ではそれぞれが孤立した学問の分野になっている事態を何とか打開して、お互いの交流を深め、相互関連性を研究しようという主旨で開かれたものです。今年は、3日間のブリッジズ会議に加え、カナダ数学学会会長のクリスチャン・ルソー教授の発案で、幾何学の父と言われる, 故コクセター教授を偲ぶコクセター・ディも開かれました。弊社の輸入商品である、ゾムツールも展示され、ゾムツールに関する発表もあるため、今年は会長と二人で、初めて参加しました。京都大学名誉教授宮崎興二先生が最近のご著書である『高次元科学』を、故コクセター教授に献本されることをご紹介をする、という大任もお受けしての参加でした。世界の著名な数学者が集まる学会を、数学音痴の私が理解できるのか、という不安がありましたが、本当に楽しく、有意義な参加でしたので、会議の様子をご紹介させていただきます。


参加者は、ピーター・ハンバーガー教授夫妻、リーザ・サランギ教授、ロバート・ムーディー教授、クリスチャン・ルソーカナダ数学学会会長、ライデン大学のバート・スミット教授など、世界中の著名な数学者をはじめ、世界の建築家、アーチストなど約150名。発表論文は80タイトルあまり、数々の数学教育ワークショップも行われ、抄録は500ページを超え、展示された作品50点あまりのどれも素晴らしいという、大変充実した会議でした。日本からは、東京電機大学の松浦昭洋氏が英語で発表、聴衆とも対話しながらの発表で、大変好評でした。会場入り口には、ご子息のエドガー・コクセター氏によって、コクセター先生の写真などが展示されました。会場のバンフ・センターは、カナディアン・ロッキーの素晴らしい景色の中、アルバータ州が設立した非営利施設で、芸術・科学・地域文化の振興のための施設です。いくつものコンサート・ホールや、練習室、会議室、宿泊施設、レクリエィション施設が点在し、別のプログラムで滞在している若い音楽家達による無料のコンサートが毎晩開かれていました。これだけの素晴らしい環境と充実した設備を持つ国際会議場は日本にはないのでは、と大変うらやましく思いました。

7月30日: 会場に着くと、ゾムツールのグループが既に到着していて、600胞体の製作に取り掛かっている。ウェスト・ミシガン大学のデビッド・リヒター、ゾムの創始者ポール・ヒルデブラントら、3人で始めて、直径約1.5mの巨大な球体に挑戦している。私も平面図形をひとつだけ貢献した。『ジオメトリー』の筆者、ジョージ・ハート氏も後から参加。こどもたちや、参加者に呼びかけて、もうひとつ120胞体を作ろうと、言っている。ジョージ・ハートは、幾何学ワークショップの天才だ。600胞体は約一日かかって作成。120胞体は、次の日、どこからか子供達が10人くらい集まってきて、約半日で作成した。画像で、ご覧いただきたい。この二つの巨大なオブジェが、メイン会場となった、マックス・ベル講堂のホールに飾られ、参加者の目を引いていた。

7月31日: 9時から開会式についで、ライデン大学のバート・デ・スミット教授の「ドロステ・イフェクト」の発表、エッシャーの作品にも言及して、とても面白い発表だった。11時からは、5会場に分かれて、20分ずつの発表が9つと、その他にもワークショップがある。「数学の授業で芸術を教える教授法」など、聞きたい発表の会場を駆けずり回る。夜8時からは、シオバーン・ロバーツ氏の講演、「幾何学を救った人」という題で、故コクセター教授の生涯と功績について話した。これは、一般公開の講演会で、ロバーツ氏はコクセター伝の著者。本は、来年カナダのペンギンブックスから出版されるそうだ。日本語訳の出版について相談され、訳を依頼される。


8月1日: 平面パズル、ヘリンボーンの解析、バン・ダイアグラムの美的側面、詩と数学、などの発表のあとで、ジョージ・ハートの紙で立体を作るワークショップがあった。ブリッジズの委員長、サランギ教授も参加者と一緒に、神妙な顔をして、はさみを使っていた。三角形を組み立てて立体ができあがる。頭が悪いのか、注意力がないのか、分からなくなるので、すぐジョージを呼ぶ。我慢強く、軽快なフットワークで、30名くらいの参加者の間を飛び回っているジョージ・ハートは、ワークショップの天才だ。こんな楽しい幾何学の授業があったら、子供達は大喜びだろう。彼はMIT出身で、現在ニューヨークの大学で教えている。ゾムツールの創始者の、マーク・ペレティエ氏、デビッド・ブース氏とも会う。ブース氏は、テキサスを拠点に、数学のワークショップを展開しているそうだ。

8月2日: オランダの、リヌス・ローロフ氏の発表。スティックのみを使った新しいドームの構成を、レオナルド・ダ・ビンチのスケッチをもとに考え付いたという。この商品を弊社で輸入することにする。CGを駆使した様々な立体やタイルのパターンなど、美しい画像が鮮烈な印象を与える。また、民族数学の分野で、イサカ・カレッジのマルシア・アッシャー教授の発表。言語や文化とも関連する、伝承パターンの比較。ワークショップは、「初等算数の授業における、動きやダンスの導入」。空間認識や、棒グラフ、数、量の概念を、黒板上で説明するのではなく、子供達の自分の体や空間で理解させることができる。「〜の間」とか、「〜の外」などの概念を、実際に小道具などを使って動いて認識させる、など、大変興味深い発表だった。この日、午後は交流を兼ねての遠足。近くにあるモレーネ湖とルィーズ湖まで、バス5台を連ねて出かける。バスの中でも、皆数学の話で盛り上がっている。 

8月3日: コクセター・ディ。議長はクリスチャン・ルソーカナダ数学学会会長。コクセターのご子息、エドガー氏が挨拶をされ、コクセター先生とご一緒に仕事をされた数学者が思い出を語り、その後、宮崎興二先生の『高次元科学』の謝辞の訳を私が読み上げた。故コクセター教授との深い交流を通じ、高次元科学を研究され、その集大成をコクセター先生に捧げられた宮崎先生の謝辞に、聴衆の方々は深い共感と感動をもって応えてくださり、この場で発表させていただいてよかった、と思った。その後、コクセター先生から教えを受けた、スミス・カレッジで結晶学の教鞭をとる、マージョリー・セネシャル教授の「コクセタリング・クリスタル」という発表。コクセター先生と宮崎先生の交流にも言及された。コクセター先生が、「リンゴには核がないことを知っているかね?」などと、答えられない質問をされたこと、そのご質問が今回のマージョリー先生の発表された研究のヒントとなったことなどを楽しく発表された。11時15分から、ウェスト・ミシガン大学の、デビッド・リヒター氏の、「ゾムツールの数学的解析」ゾムツールとは、E8である、という数式の解説だった。ゾムは、その仕組みとストラットの長さの比で、完璧な完結性を持った構成キットだという。詳しい情報は、ホームページをご覧いただきたい。 http://homepages.wmich.edu/~drichter/bridgeszome2005.htm