モンテッソーリを訪ねて

イタリア紀行
2007年3月
前畑 典子



 3月15日、幼児教育理論として知られ、日本の幼稚園でも注目されているモンテッソーリのふるさとで保育園を見学して来ました。 ローマの住宅街にある、美しい緑に囲まれたその施設は、オペラ・ナショナル・モンテッソーリが運営する、銀行の従業員のための「こどもの家」。 1971年に設立され、マリア・モンテッソーリ女史の理論を実践し、朝7時半から夕方6時半までの保育を行っています。 在籍するのは、3才から6才までの約150名と6ヶ月から3才までの16名。職員は、先生と職員を合わせて38名。 給食も自校式です。左の写 真はその敷地と、朝食の後片付けをする年中の女の子。 どの子も、親と手をつなぎ、駐車場から建物で歩いて登園し、自分の選ん だ作業と向かいあっていました。 朝食後のお片づけも、子ども達が自主的に選んでする作業です。木立の向こう側に建物があ ります。素晴らしい環境を、ご案内します。


 ローマの住宅街のはずれ、ラルゴ・バスティアという地区にバンコ・デ・イタリア(イタリア銀行)の広大な土地があります。 大きな鉄の門に囲まれたその敷地内には、何と、古代ローマの市街地の壁が通っているのです。 その敷地の広大さにまずびっくり。 そして、ローマの壁の大きさにも、びっくり!守衛さんのチェックを受けて、銀行の建物と反対方向に、ローマの壁沿いに歩くこと10分。 桜が咲いていました。時折、小さな子どもを乗せた車がそばを通り抜けていくので、この先に「こどもの家」があるということが分かります。 ようやく、こどもの家にたどり着きました。住宅街なのに、田舎に来たような雰囲気。市街の雑踏からは完全に隔離されています。 この、のどかな自然の中で、子ども達は一日を過ごします。

 「カサ・デ・バンビーニ」という、建物の入り口の小さな表札。やさしい色の陶板です。 建物は、3才から6才までのこどもたちがいるところは、2階建て。
6ヶ月から3才までのこどもたちがいるのは、平屋のレンガ造りの建物。 とても暖かい、アットホームな雰囲気でした。
 写真は、案内してくださった、園長先生のカルラ・チェベニーニ先生。 やさしく、物静かな物腰と、おしゃれなスカーフが印象的でした。通訳してくださった先生と、乳幼児のお家の裏口で。 裏口から出ると、広々としたお庭です。
 これは、玄関の壁面。子ども達の描いた絵がいっぱいに貼ってありました。待合室にある、小さな椅子も、かわいかった。
 広い廊下には、壁面を使った広々としたお絵かきスペース。朝早くから、もうスモックを着て、お絵かきをしているこどもがいました。 この子は、絵を描くことを楽しみに登園してきたのでしょう。たっぷり使えるように常設してある絵の具がうらやましい。 工作の先生もそばにいらっしゃいましたが、何か指示をするのではなく、じっと見守っていらっしゃいました。


 よく使い込んだモンテッソーリの教材が、どの教室にも整然と並んでいます。 子ども達は、その教材の中から、自分のやりたい「おしごと」を選んで取り組みます。 数字や数、形や文字、地図のおしごとのほかにも、お洗濯、アイロンかけ、テーブルセッティングなど、生活に即したおしごともあります。 教材の中には、木製のドールハウスや、プラントイのドールファミリーもありました。 音楽室もありましたが、押し付けられた一斉保育ではなく、練習したいこどもたちが自分達で利用するのだそうです。
  
 左は、食堂。朝早くから来ていた子ども達がちょうど朝食を終えた後でした。
 これは、トイレと手洗い場。 明るい色使いのタイルが、イタリアらしい。トイレは、仕切りがなく、みんな一緒です。
 お昼寝をする部屋。2段ベッドがたくさん置いてありました。
 下の写真は、6ヶ月から3才までのこども達のお昼寝の部屋。壁に、一人一人の印が着いています。
 
 右の写真は、1907年1月6日にモンテッソーリ女史が初めて開設し、現在でも運営されている、ローマ市内のサン・ロレンツオ地区のビア・デ・マルシ58にあるこどもの家。 マリア・モンテッソーリの若い頃の写真が入り口に貼ってありました。モンテッソーリは、今年100年祭を祝いました。 1月6日、7日の二日間に渡って、ローマ市内のパルコ・デラ・ムジカで開催されたという。 「教育と平和、マリア・モンテッソーリのこどもの心と現代における科学的研究」と題されたこの会議は、イタリア大統領の主催で開催されました。 教育から平和へ、という興味深いタイトルの講演も行われました。詳しくは、こちらをご覧ください。
 http://www.montessori.it/english/centenaryconference.htm

 イタリアにはモンテッソーリの学校が全部で約250校あります。0才から3才までの保育園、3才から6才の「こどもの家」、6才から11才の小学校です。 障害児教育のメソードが健常児の教育にも役立つと考えた、イタリアで初めて医学博士となったマリア・モンテッソーリは、独自の教育理念を打ち立てました。 『全ての子どもには、中から湧き出る生命の力がある』これが、モンテッソーリの考えです。 こどもの持つ潜在能力を信じて、自分でやってみるという力を大切に育む。これは、幼児教育の原点のような気がします。 「〜しなさい!」「〜してはダメ!」とがみがみ育てたような気がする私にとっては、痛恨の幼児教育論です。
 そういえば、今年春の甲子園選抜で優勝を飾った、静岡の代表、常葉菊川高校の森田監督も、このようにコメントされていました。 「どの選手も、打ちたいはずです。きっと打ってくれると、信じていました。素晴らしい選手達です。」すばらしい監督ですね。 自分を誇るのではなく、生徒達の力を最後まで信じて、見守る監督。 この監督は、29年前、自らが主将として甲子園で戦ったそうです。 どこか、モンテッソーリの理念に似ているように感じます。100年前にマリア・モンテッソーリ女史が始めたこの理念は、イタリアの教育文化にしっかりと根をおろしているように感じました。
 モンテッソーリの100年祭は、今年世界各地で開催されています。ニューヨークでは、3月1日から4日まで、世界各地から5000人が、「モンテッソーリ教育100年の革新と感動」というタイトルで会議を行いました。日本からは、日本モンテッソーリ教育綜合研究所を代表して、松浦公紀先生と桜井美砂子先生が講演発表をされました。平和の為の使命は同じ、ということで、国連本部でも会議が行われたということです。
 日本では、10月27日と28日の2日間、東京卸センターで、子どもの家」『誕生100年記念の中央大会が開催されます。
 ローマフィウチミーノ空港は、レオナルド・ダ・ビンチ空港という名前でも呼ばれています。 空港からは、レオナルド・エクスプレスで市内のテルミニ駅まで約20分。列車でご一緒になった中学の美術の先生と。 ローマまでカラパッチョの絵を見に来られたとのことでした。この列車には、レオナルド・ダ・ビンチの顔がペイントされています。 彼の偉大さが、近年益々認識されているようです。
 レオナルド・ダ・ビンチといえば、彼が既に発見してノートに記述していたことに敬意を払って、レオナルド・スティックと名づけた、リヌス・ローロフ氏が作った構成玩具が入荷しました。
 sonotakagakugangu.htm
 
レオナルド・スティク 定価4,500円(税抜き)
 今回は、憧れのユーロスターにも乗りました。 ナポリからローマまで、約一時間半。早くて快適、車体もスマートです。


 イタリアの文化、芸術、建築の素晴らしさに改めて圧倒された旅でした。 バチカン公国のサン・ピエトロ寺院の丸天井に登りました。かなりきついらせん階段を頑張って上りきると、ローマ全市が見渡せるほどの高さ。 左の画像の、丸天井のてっぺんに、大勢人が立っているのが見えるでしょうか。
 
 上る途中で、全ての壁面を飾るモザイク画の素晴らしさに圧倒されました。顔の陰影まで、自由自在に描くことができるモザイク画の素晴らしい伝統。 西洋美術の中でモザイク画の占める位置の大きさに改めて気づかされました。
   
 オーブ社のモザイクシリーズに、新製品が登場しました。スティッキーモザイク・キッズアートです。
定番の、マグネチック・モザイクも人気です。
 orb.htm
 
スティッキーモザイク・キッズアート 定価4,000円(税抜き) マグネチック・モザイク 定価3,900円(税抜き)
 また、至る所に、タイルの幾何学模様が敷き詰めてあります。タイル職人と幾何学模様。 このような複雑な模様や色使いを設計したのは、どんな人だったのでしょうか。 幾何学も、相当発達していたと思われます。
   
 左の絵は、ナポリのカポディモンテ美術館所蔵の、パチョーリの幾何学を教える人の絵。 幾何学も、タイルの模様や建築と一緒に発達したのでしょうか。
 これは、フォッカチャ。 ピザ生地の素焼き。日本で言えば、素うどんでしょうか。これが、おいしい! 自家製で焼きたての香ばしいフォッカチャをだしてくれるのは、カステラ・マーレのシーフードレストラン、ミッチョのマリオと。
 
 富士山のように見えるのは、ベスビオス 火山。3月中でも寒くて、一夜にして頂上が雪で覆われました。
 ソレントで見かけた、ホンダの シビック。シビックも、イタリアのはとびきりかっこいいのは、何故でしょうか?ヨーロッパバージョンは、特別?
 イタリアの、とびきり大きな、グレープフルーツのようなレモン。 種を取って、会社の前に植えてみました。大きくなるかな?
 今回の旅は、モンテッソーリをはじめとして、イタリアの文化遺産を思い知らされました。文化とは、壁紙ひとつにも現れていて、小さな頃から毎日それを眺めている人にいつの間にかしみ込んでいくものなのでしょうか。「ローマは一日にしてならず」ですね。


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